束ねた電線の通電過熱を模擬実験する装置

 

束ねた電線(テーブルタップやコードリール,電ドラ)に大電流を流すと,過熱して例えば上の写真のように電線被覆が融けて火災等の事故につながります.写真の電ドラは,大学のゴミ捨て場に廃棄されていたものを調べたところ通電過熱の事故を起こしたと推定される痕跡があったものです(おそらく,大学祭でリールにコードを巻いたままホットプレートか何か―もしかするとホットプレートと電気ポットの同時―を使ったのだと思われます).

教科書には束ねた電線が通電時に過熱している様子をサーモグラフィーで撮影した写真が掲載されていますが,わかるのは表面だけです.でも本当に知りたいのは,束ねた電線の内部がどう温度上昇するかです.そこで,これを模擬実験する装置を学生さんと一緒に開発しました(2019年度卒業論文).

一般的な1500 W,5 m長のテーブルタップのコードの抵抗は0.0775 Ω@20 ℃です.ここに15 Aの電流を流すと,コード部分での電力消費(ジュール熱に変換される)は17.4 W となります.テーブルタップは延ばして使うのが基本ですので,通常はコード全体でこの熱を放出するわけですが,束ねて使うと束ねた部分の内部にこの熱がこもってしまい温度上昇します.温度上昇すると抵抗値が大きくなりますので更に発熱量が増えて温度上昇に拍車がかかります.

模擬実験装置は,この状況を「直線配置した4本の抵抗」と「束ねた4本の抵抗」で再現してそれぞれの温度上昇を計測するものです.12 V電源,36 Ω×4 本 = 144 Ωで1 Wの電力消費の状況を作り出しています.


 回路図とプログラムのアクティビティ図(簡易版)です.温度検出には薄型のサーミスタを用いました.卒論ではArduino互換のAdafruit Metro Mini328を用いましたが,下の装置写真及びデモ動画ではArduino Nano Everyにしています.今だったらSeeeduino XIAO SAMD21 or RP2040でCircuitPython,液晶ディスプレイもI2C接続タイプにするでしょうね.もしくは,micro:bitを用いてホストPCのターミナル(シリアル)画面に表示させるのが簡単かもしれません.

模擬実験装置の写真です.まずは測定開始前.サーミスタの自己発熱がありますので,気温より高めの温度表示になっています :

液晶の表示は,左から通電開始からの経過秒数,直線配置の抵抗表面温度,束ねた抵抗の内部温度です.上段が1秒ごとの表示,下段が10秒ごとのラップ表示です.

こちらは120秒の通電終了直後.1Wでも25℃の温度差が生じていることがわかります.


模擬実験装置のデモ動画です:

120秒経過後は通電を停止しますので,温度は段々と下がっていきます.

詳細(Arduino版のソースコードを含む)は
武藤浩二, 出口廉也,“束ねた電線の通電過熱を模擬する実験装置”, 日本産業技術教育学会九州支部論文集, 28, pp.1-7, 2021年3月
に掲載されています.